2009年12月1日火曜日

「ザッポス」と「ザ・リッツカールトン」の対比(その2)


最近、日本の書籍業界では、「本は、帯とPOPで売れる」とか言われています。その是非は、ともかく「ザッポスの奇跡」の帯には、「驚異的な成長の秘密は『企業文化』にあった!」とあります。
確かに、この本で、著者が言いたいことを一言で表現しています。
その企業文化の基軸になっているのが「ザッポス」では、「コア・バリュー」です。「ザ・リッツカールトン」では、「クレド」を中心にした「従業員への約束」「サービスの3ステップ」「ザ・リッツカールトン・ベーシック」でしょう。
この点、両社のビジネスの違い、歴史の違いもあるのでしょうが、「ザッポス」の方が、実に、シンプルです。
「サービス」という言葉は、とても、長い歴史の中で、その時代、時代で、使用されてきたため、今では、使う人がいろいろな意味で使用しています。とても曖昧な意味の言葉になっています。
ここは、常套手段で、「広辞苑」の<サービス>の解説を確認してみましょう。「①奉仕。②給仕。接待。③商店で値引きしたり、客の便宜をはかったりすること。④物質的生産過程以外で機能する労働。用役。用務。」とあります。日本を代表する辞典では、このような解説になっています。
これは、これでおいて置いて、「ザッポス」のサービス観を「コア・バリュー」に見てみます。
「コア・バリュー」は、10項目に集約されています。
そして、さらに、読み取ってみますと、「ザッポス」の目指す[what to do ]は第1項だけです。
「サービスを通して、WOW(驚嘆)を届けよ」(Deliver WOW Through Service)です。
あとの9項目は、すべて、このことを達成するための「ザッポス」流の[how to do]です。
ということは「ザッポスのサービス」の目指しているところは、広辞苑で示されている狭義のサービスではなく。最も広義なサービス、言い換えれば、ザッポスの企業活動すべてを「サービス」という言葉で表しているといえます。
このことは、マーケティングの専門家、フィリップ・コトラーの「製品」についてのコンセプトと相通じるものがあります。
コトラーは、製品を5次元で説明しています。
第一の次元は、中核ベネフィット(便益)です。家庭用の電気洗濯機は、物を洗ってきれいにするという便益を求めています。
第二の次元は、洗濯する基本的な機能をシステム化、機械化した段階が、「一般製品」です。
第三の次元は、消費者が期待する属性と条件の組み合わせである「期待された製品」です。例えば、乾燥まで、自動的に済ませてしまう洗濯機です。
第四の次元は、配送、据付、アフターサービスなどを含む「拡大された製品」です。
第五の次元は、製品の将来のあり方を示す「潜在的製品」です。
これが、コトラーの製品についての考え方です。「一般製品」と「サービス」が渾然一体となっています。その「一般製品」の中核は、ベネフィットです。コトラーは、本によっては、中核ベネフィットのところを、「サービス」としているケースもあります。ということは、根源的には、広義の製品は、広義のサービスと言い換えることが出来るといえます。
日頃から、「商品」と「サービス」と対極にあるように表現していますが、実は、「商品」と「サービス」の根源にあるのは、中核的ベネフィット〈便益)であります。
今一度、確認してみます。「サービスを通して、WOW(驚嘆〉を届けよ」です。「素晴らしいサービスを届けよ」ではないのです。「サービスを唯一の手段にして、WOW(驚嘆)を届けよ」です。
これは、同じように見えるが、違うのです。「素晴らしいサービス」というのは、提供者サイドの単なる想い込みに過ぎないことの可能性もあります。WOWを感じるかどうかは、お客様に主体性があるわけです。
ですから、提供者側が、どんなに素晴らしいサービスだと考えていても、肝心のお客様にWOWを感じてもらえなければ、ザッポスでは高く評価しないのでしょう。
本書では、著者が、鋭く、ザッポスの価値基準の違いを随所に指摘しています。この価値基準の違いも「ザッポス」のノードストロームを超えるサービスという定評に結果、結びついています。

1 件のコメント:

  1. 石塚です。コメントありがとうございます。早速連動サイトに転載させていただきます。

    さすが、小山さんのサービスに対する洞察は鋭いですね。納得しながら読ませていただきました。本格的にサービスの時代に突入し、流通業も顧客の視点に立った「サービスの仕組み」や「サービスのプロセス」を創造しなければならない時が来ました。裏返してみれば、勝ち組になるチャンスも大いにある市場になっていると思います。

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