2009年12月31日木曜日

「ザッポス」と「ザ・リッツカールトン」の対比(その5)

「ザッポスの奇跡」にザッポス流のサービス思考を読むことが出来ます。
一方、最も、伝統的な歴史のあるビジネスであるホテルにサービスの原点を見ることが出来ます。その視点から、高野 登氏の「リッツカールトンが大切にするサービスを超える瞬間」を見てみます。
中心にあるのはもちろん「クレド」です。
『クレドカードを開くと、私たちが「モットー」と呼んでいる次の一文が、ひときわ大きな文字で書かれています。
“We Are Ladies and Gentlemen
Serving Ladies and Gentlemen"
(紳士淑女にお仕えする我々も紳士淑女です)

この一文は、従業員はお客様と同じく紳士淑女であり、同じ目線、同じ感性で働くべきだという意味です。』(P.58)
この部分は、現在のサービスの原点を見事に簡潔に表現しています。
サービスの語源をたどれば、紛れもなくslave(奴隷)です。身分の差別はあってはなりませんが、仕事として、サービスは、「お仕えする」という原義を曖昧にしては、よいサービスの実現は難しくなります。

サービスに携わっている人の中には、『「サービス」という言葉には、「貢献」「奉仕」「世話」「もてなしぶり」「奉公」「礼拝」「儀式」など様々な意味があるが、その第一義は、カソリックにおける神に対する奉仕と考えることができる。」と語る人もいるが、これは、正確ではない。

関連していえば、「ホスピタリティ・サービス」を単に、「心のこもったおもてなしサービス」といった意味で使用されていると、いつまでたっても、現場は、堂々巡りして「ホスピタル・サービス」の実現は覚束ないようです。
「ホスピタリティ」は、もともとは、HOST(主人)の「心のこもったおもてなし」の意味です。「(主人の)おもてなしの心を」具体的に実現するのがサービスのプロフェショナルたちです。
これが、本来の「ホスピタリティ」と「サービス」の関係です。

「ザ・リッツカールトン」のホスピタリティは、まさに、「クレド」であり、「ザッポス」では、「コア・バリュー」そのものです。
両社において、「サービス」について、堂々巡りが起きない基本と見ることが出来ます。









「麻家戸(あさかと)」の文字QRコードをケータイのバーコードリーダーでお読み取りいただければ幸いです。
お忙しい方におススメいたします。
(「ロゴQ」「文字QRコード」は、A・Tコミュニケーションズ株式会社の登録商標です)

2009年12月11日金曜日

「ザッポス」と「ザ・リッツカールトン」の対比(その4)


「ザッポスの奇跡」の著者は、ザッポスが「コア・バリュー」を中心にして、なぜ、「コールセンター」と言わずに「コレクトセンター」と呼ぶのか、なぜ「一コール当たりの処理時間を測らない」のか、「超サービス的人材を発掘する人事部門」「サービスの魂を学ぶ、四週間の手作りトレーニング」「カスタマー・サービスの既成概念を破るCLT(カスタマー・ロイヤリティー・チーム)実習」「学べば、学ぶほど報われる17のスキル取得に基づく昇級システム」などなど全編にわたって、丁寧に、事実をレポートしてくれている。
これらの一つ一つが、ザッポスの企業活動(アクティビティー)です。
戦略論で著名なマイケルポーターの考え方に基づいて、ザッポスの一つ一つの活動をマップにして行くと、それぞれの活動が、相互に見事にフィット(適合)していることが明確になってきます。
それは、「コア・バリュー」の10項目が、徹底的に、すべての企業活動にわたって、具現化されているからでしょう。
著者は、ザッポスの本質を具体的な企業活動の事実で、明確にえがきだしてくれています。

2009年12月7日月曜日

「ザッポス」と「ザ・リッツカールトン」の対比(その3)


「ザッポス」のサービスに対する価値基準の違いは、「ザッポス」に転職してきた社員をも驚かせます。
「『ザッポスが他社と違うところ……。そうね、いろいろあるけど、中でも一番驚いたのは、処理時間を測らないこと』 処理時間というのは、オペレーターがコール一件あたりに費やす通話時間と、その後のデータ・エントリーなどに費やす後処理時間を足したもので、普通のコンタクトセンターでは、オペレーターの生産性を測る一般的な指標として用いられている」
「ザッポスではこの数値を指標としていない。問題の解決にたどり着き、顧客を満足させるためには、たとえ何時間でも費やすことがよしとされているのだ」
「何をもって指標にしているかというと、『顧客を満足させるために、“普通”を超越するサービスを提供できたか否か』だという」
「基本的に、社内チームによる評価と、顧客による評価、の二通りです」(P40,41)
通常、オペレーターのコール一件あたりの処理時間は、オペレーターの生産性を測る一般的な指標です。
ザッポスでは、この処理時間を評価の指標にしていません。だからといって、指標をもっていないのではなく。まったく逆です。
独自の価値基準による、ザッポス固有の指標を創出しています。
著者は、ザッポスを「測って、測って、測りまくる」「その外見からは予想もつかないほど、指標徹底型(メトリックス・インセンティブ)な会社なのだ」(P103)とその本質を指摘しています。
違った指標をもつことが重要であることを、わかり易くするために、メジャーリーグの事例を見てみましょう。
2007年レッドソックスはMLBの頂点、ワールド・シリーズを制覇しました。松坂大輔の活躍はもとよりですが、岡島秀樹の貢献も大きなものがありました。
松坂のメジャー行きは、野球ファンを超えて、話題にもなり、注目を集めました。一方、岡島のレッドソックスとの契約は、それほど華々しいニュースにはなりませんでした。当初、アメリカのメディアは、「松坂の話相手」と評し、岡島の評価は、決して高いものではありませんでした。
しかし、後日、NHKの取材に応じて、レッドソックスは、岡島をどのような指標で、評価し、契約したかを明らかにしました。
レッドソックスは、岡島の投球データーの奪三振/与四球(K/BB)の指標に注目したといいます。即ち、四球一つについて、三振をいくつ取れるかという指標です。よいピッチャーの指標は2以上だとされています。フォアボール一つ出すうちに、二つ以上三振が獲れるということです。
岡島投手の巨人時代の最終年(2005年)の防御率、4.75、K/BB、2.9
2006年日本ハムに移籍になり、防御率、2.14、K/BB、4.5の好成績を残し、日本ハムの優勝および日本一に貢献しました。
レッドソックス一年目(2007年)防御率、2.2、K/BB、3.7、期待に違わない好成績で、ワールド・シリーズ制覇に貢献しました。
岡島のK/BBの高い実績を評価したレッドソックスの評価基準の勝利とも言えそうです。

2009年12月1日火曜日

「ザッポス」と「ザ・リッツカールトン」の対比(その2)


最近、日本の書籍業界では、「本は、帯とPOPで売れる」とか言われています。その是非は、ともかく「ザッポスの奇跡」の帯には、「驚異的な成長の秘密は『企業文化』にあった!」とあります。
確かに、この本で、著者が言いたいことを一言で表現しています。
その企業文化の基軸になっているのが「ザッポス」では、「コア・バリュー」です。「ザ・リッツカールトン」では、「クレド」を中心にした「従業員への約束」「サービスの3ステップ」「ザ・リッツカールトン・ベーシック」でしょう。
この点、両社のビジネスの違い、歴史の違いもあるのでしょうが、「ザッポス」の方が、実に、シンプルです。
「サービス」という言葉は、とても、長い歴史の中で、その時代、時代で、使用されてきたため、今では、使う人がいろいろな意味で使用しています。とても曖昧な意味の言葉になっています。
ここは、常套手段で、「広辞苑」の<サービス>の解説を確認してみましょう。「①奉仕。②給仕。接待。③商店で値引きしたり、客の便宜をはかったりすること。④物質的生産過程以外で機能する労働。用役。用務。」とあります。日本を代表する辞典では、このような解説になっています。
これは、これでおいて置いて、「ザッポス」のサービス観を「コア・バリュー」に見てみます。
「コア・バリュー」は、10項目に集約されています。
そして、さらに、読み取ってみますと、「ザッポス」の目指す[what to do ]は第1項だけです。
「サービスを通して、WOW(驚嘆)を届けよ」(Deliver WOW Through Service)です。
あとの9項目は、すべて、このことを達成するための「ザッポス」流の[how to do]です。
ということは「ザッポスのサービス」の目指しているところは、広辞苑で示されている狭義のサービスではなく。最も広義なサービス、言い換えれば、ザッポスの企業活動すべてを「サービス」という言葉で表しているといえます。
このことは、マーケティングの専門家、フィリップ・コトラーの「製品」についてのコンセプトと相通じるものがあります。
コトラーは、製品を5次元で説明しています。
第一の次元は、中核ベネフィット(便益)です。家庭用の電気洗濯機は、物を洗ってきれいにするという便益を求めています。
第二の次元は、洗濯する基本的な機能をシステム化、機械化した段階が、「一般製品」です。
第三の次元は、消費者が期待する属性と条件の組み合わせである「期待された製品」です。例えば、乾燥まで、自動的に済ませてしまう洗濯機です。
第四の次元は、配送、据付、アフターサービスなどを含む「拡大された製品」です。
第五の次元は、製品の将来のあり方を示す「潜在的製品」です。
これが、コトラーの製品についての考え方です。「一般製品」と「サービス」が渾然一体となっています。その「一般製品」の中核は、ベネフィットです。コトラーは、本によっては、中核ベネフィットのところを、「サービス」としているケースもあります。ということは、根源的には、広義の製品は、広義のサービスと言い換えることが出来るといえます。
日頃から、「商品」と「サービス」と対極にあるように表現していますが、実は、「商品」と「サービス」の根源にあるのは、中核的ベネフィット〈便益)であります。
今一度、確認してみます。「サービスを通して、WOW(驚嘆〉を届けよ」です。「素晴らしいサービスを届けよ」ではないのです。「サービスを唯一の手段にして、WOW(驚嘆)を届けよ」です。
これは、同じように見えるが、違うのです。「素晴らしいサービス」というのは、提供者サイドの単なる想い込みに過ぎないことの可能性もあります。WOWを感じるかどうかは、お客様に主体性があるわけです。
ですから、提供者側が、どんなに素晴らしいサービスだと考えていても、肝心のお客様にWOWを感じてもらえなければ、ザッポスでは高く評価しないのでしょう。
本書では、著者が、鋭く、ザッポスの価値基準の違いを随所に指摘しています。この価値基準の違いも「ザッポス」のノードストロームを超えるサービスという定評に結果、結びついています。